25年の歩み:サイエンスアドバイザーからのメッセージ

浅井 誠

科学顧問  

人類未到の時代に立つということ

ローラス インターナショナルスクール オブ サイエンス が25年という節目を迎えられたことに、心より敬意を表します。 

 

25年という時間は、一人の人間が大人へと成熟するに足る長さです。同時に、文明の時間軸で見れば、ほんの一瞬でもあります。しかし、その一瞬の積み重ねが、社会の方向を大胆に変えていきます。いま私たちは、人類未到の時代に立っています。
 

 

AIが思考を模倣し、人工生命が生命の輪郭を揺さぶる時代。技術はもはや道具ではなく、人間そのものの定義へと踏み込んでいます。かつて「自然」と「人工」は明確に区別されていました。しかしその境界は急速に溶け始めています。そのとき、問われるのは技術の性能ではありません。問われるのは、「人間とは何か」という問いです。 

 

これからの時代において、知識の量や計算の速さは決定的な価値にはなりません。情報はすでに人間の外部に無限に蓄積され、処理能力は人間の能力をはるかに超えています。知っていることそれ自体は、もはや人生の羅針盤にはならないのです。それどころか、文明そのものが羅針盤を求めていると言っても過言ではないかもしれません。そのくらい現代は人類未到の時代なのです。 

 

羅針盤とは、方向を決めるものです。方向とは、価値の選択です。価値の選択とは、存在の問いに直結しています。つまり、「我々とは何者か」という問いを避けて、未来を設計することはできません。本当に必要なリーダーとは、既存の枠組みの中で正解を出す人ではありません。既存の枠組みそのものを問い直しながら、それでもなお人間の本質からぶれずに歩み続けられる人です。大胆でありながら、軽薄ではない。革新的でありながら、人類の連続性を断ち切らない。その緊張関係を引き受ける覚悟を持つ人です。 

 

私たちはしばしば、変化の激しさを嘆きます。確かなものがない、と。しかし自然界を見れば、変化こそが本質です。私たちの身体は数ヶ月単位で細胞が入れ替わっています。それでも自己同一性は保たれています。変化の中に、小さな平衡があるのです。この視点に立つとき、未来への不安は、探究への好奇心へと姿を変えます。 

 

科学は、そのための態度です。科学とは単なる知識体系ではありません。世界を疑い、観察し、検証し、そして暫定的な理解を積み重ねていく営みです。そこには謙虚さがあります。自分の理解が常に不完全であることを認める態度です。  

私たち科学者はそれを「巨人の肩に乗る」と表現します。私たちは、過去の叡智の上に立ちながら、さらに遠くを見ようとしています。その姿勢そのものが、人類の連続性を支えています。
 

 

“Give me a place to stand and I will move the Earth.” 

 

これはアルキメデスの有名な言葉です。知性に基づいた想像力が天地をも動かす力になりうるのだ、という人類の可能性を謳っているようにも思えます。立つべき場所を見つけたとき、知性は世界を動かす力になる。その「場所」とは、物理的な支点だけではありません。思想の支点、価値の支点、存在の支点です。 

 

教育とは、その支点を探す旅に他なりません。 ローラスが25年にわたり育んできたのは、単なるサイエンス教育ではなく、問いを持ち続ける姿勢なのではないでしょうか。問いを持つこと。それは不安定さを引き受ける人生への態度・勇気でもあります。しかしその不安定さの中にこそ、創造の可能性があります。 

 

これからの子供たちは、AIと共存し、人工生命と向き合い、気候変動や宇宙開発といった未踏の領域に挑みます。そのとき彼らに必要なのは、完璧な答えではなく、誠実な問いです。 

 

「我々とは何者か。」 「何を守り、何を変えるのか。」 「どの方向へ進むのか。」 

 

その問いを手放さない限り、人類の羅針盤は失われません。 

 

25年という時間の先に、さらに長い時間軸が広がっています。 そこに立つ若者たちが、自らの支点を見つけ、好奇心に導かれながら、軽やかに世界を拓いていく姿を、私は確信しています。

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浅井 誠

サイエンスアドバイザー、ローラス インターナショナルスクール オブ サイエンス
代表取締役 アークレブ株式会社 

慶應義塾大学特任教授

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