バイリンガル教育とは?メリット・デメリットと家庭の工夫
「英語も日本語も、どちらもきちんと育つのだろうか」——バイリンガル教育について調べ始めると、期待と不安が同時に浮かんでくる保護者の方は少なくありません。検索してみると、「認知能力が高まる」と書かれた記事と「セミリンガルになる危険がある」と書かれた記事が並んでいます。どちらも自信を持って書かれているだけに、どう受け止めればよいのか迷ってしまうのも自然なことです。
この記事では、バイリンガル教育とは何かを整理したうえで、メリットとデメリットについて研究が実際のところ何を示しているのかを確認します。そのうえで、結果を左右する条件と、ご家庭でできることをご紹介します。
この記事では
バイリンガル教育とは?2つの言語で「育つ」ための教育
バイリンガル教育とは、2つの言語を使って生活や学習を進め、両方の言語で年齢相応の力を育てることを目指す教育の総称です。英語を「教科」として学ぶこととの違いは、言語が学ぶ対象であると同時に、「学ぶための道具」にもなっている点にあります。
日本の家庭で選ばれている代表的な形は、次の4つに整理できます。
| 形 | 内容 | 主な担い手 |
|---|---|---|
| イマ‐ジョン型 | 園や学校での生活の大部分を英語で過ごす | インタープリスクール等 |
| 「一親一言語型(OPOL)」 | 保護者がそれぞれ別の言語で話しかける | 国際結婚のご家庭など |
| おうち英語型 | 家庭で絵本・歌・声かけを英語で行う | 保護者 |
| 併用型 | 家庭での取り組みに園や教室を組み合わせる | 家庭+教育機関 |
「積み上がる」バイリンガルと「入れ替わる」バイリンガル
この分野には、押さえておくと見通しがよくなる区別があります。カナダの心理学者ウォーレス・ランバートが1975年に示した、「加算的梅林がリズム」と「減算的バイリンガリズム」という考え方です。¹。第一言語を保ったまま第二言語が加わっていくのが加算的、第二言語を得る代わりに第一言語が失われていくのが減算的です。減算的な状態は、母語が社会の中で少数派に置かれ、その言語で学ぶ機会がない状況で起きやすいことが知られています。
日本で暮らし、家庭でも地域でも日本語を使うご家庭であれば、構造としては加算的になりやすい環境にあります。以降で扱う注意点の多くも、「どうすれば入れ替わりではなく積み上がりにできるか」という一点に集約されます。
メリット・デメリットを、研究はどう見ているか
まず、一般に語られるメリットとデメリットを整理します。
| よく挙げられるメリット | よく挙げられるデメリット |
|---|---|
| 2つの言語で意思疎通ができる | 2つの言語が混ざり合う |
| 異なる文化への理解が深まる | 語彙が少なく見える時期がある |
| 進学・職業の選択肢が広がる | 母語(日本語)の発達への不安 |
| 認知面での良い影響がある | 学習の負担が増える |
「頭が良くなる」は、どこまで言えるのか
バイリンガル教育の記事で最もよく見かけるのが、認知機能が高まるという説明です。この見方の中心にいるのが、カナダ・ヨーク大学のエレン・ビアリストク教授です。同教授は『Child Development Perspectives』誌(2015年)で、2つの言語を使い分ける経験が注意の向け方、を鍛え実行機能(目標に向けて注意や行動を制御する力)の発達に関わると論じました。
ただし、その後の検証では慎重な見方が広がっています。ノルウェーのスタヴァンゲル大学とオスロ大学の研究チームは、18歳以下を対象とした143件の群間比較(583の効果量)を統合したメタ分析を『Psychological Bulletin』誌(2020年)に発表しました。実行機能全体でのバイリンガルの優位は統計的には認められたものの、効果の大きさは g = 0.06 とごくわずかで、出版バイアスの兆候も指摘されています。補正後も有意に残ったのは、切り替え(switching)の課題に限られました5。
つまり、「バイリンガル教育をすれば頭が良くなる」と言い切れる根拠は、現時点では強くありません。教育に携わる立場として、この点を誇張してお伝えしないほうがよいと考えています。一方で、認知面の上乗せが小さいとしても、2つの言語を使えることの価値が損なわれるわけではありません。読める本が増え、話せる相手が増え、進路の選択肢が広がる。これらは副次的な効果ではなく、バイリンガル教育が本来目指しているものです。
研究が「心配ありません」と示していること
反対に、デメリットとして語られがちな点のうち、研究では否定されているものもあります。カナダ・コンコルディア大学のクリスタ・バイヤーズ=ハインライン教授と米国プリンストン大学のケイシー・ルー=ウィリアムズ教授が乳幼児のバイリンガル研究を整理した解説(『LEARNing Landscapes』2013年)では、次の点が示されています 。6
- 言語の遅れ— バイリンガルの子どもがモノリンガルの子どもより、言語の困難を抱えたり発達に遅れが出たりしやすいという事実は確認されていない
- 語彙の少なさ— 片方の言語だけで数えると少なく見えることがあるが、2つの言語を合わせた「概念語彙」で見るとモノリンガルと同等
- 言葉の混ざり―― 2つの言語が混ざること(コードミキシング)は、混乱ではなく発達の正常な一部であり、知っている言葉を総動員して伝えようとする工夫でもある
「英語と日本語が混ざって出てくる」というご相談はよくいただきますが、これは発達が順調に進んでいるサインとして理解できる現象です。ただし言葉の育ち方には個人差があり、気になる様子が続く場合には専門機関にご相談ください。
「セミリンガル」を心配する前に——母語という土台
デメリットの議論で決まって登場するのが、「どちらの言語も中途半端になる」という懸念です。この心配の背景にあるのが、トロント大学のジム・カミンズ名誉教授が1979年に『Review of Educational Research』誌で示した理論です。 2
カミンズは、2つの言語は表面的には別物に見えるものの、その根底には共通の認知的基盤があり、第一言語で身につけた概念やリテラシーが第二言語へと移行すると提唱した。彼の「相互依存仮説」によれば、第二言語への集中的な接触が始まる時点で第一言語がどの程度発達しているかは、その後の学業的な発達と密接に関連しているという2。
もう一つ示唆的なのが、日常会話で使う言語の力(BICS)と、教科学習で必要になる抽象的な言語の力(CALP)の区別です³。流暢に話せることと、その言語で考えて学べることは、別の力なのです。
なお「セミリンガル」という用語自体は、子どもの側に欠如があるかのようなレッテルになりやすいとして、現在の研究では使用を避ける傾向にあります。実際には「どの言語の、どの力が、どの場面で育っていないのか」を個別に見ていくほうが適切だと考えられています。
ご家庭でできる最も確かな備えは、日本語での会話や読み聞かせの時間を減らさないことです。英語の時間を足すことと、日本語の時間を削ることは、同じではありません。
結果を左右するのは「量」と「相手」
では、バイリンガル教育の成否を分けるのは何でしょうか。複数の研究が一貫して示すのは、始めた年齢よりも入力の量と質だということです。
どれくらいの時間、その言語に触れているか
バイリンガル研究では、起きている時間のうち各言語に10〜25%程度触れていることを、その言語を使っているとみなす目安にすることが多いとされています6。乳幼児の語彙獲得と入力量の関係を調べた古典的な研究(Pearson ほか, 『Applied Psycholinguistics』1997年)でも、触れる量が少ない言語ほど語彙の伸びが緩やかになることが報告されました7。
ただしこの割合は研究上の便宜的な基準であり、満たせばバイリンガルになるという保証ではありません6乳幼児の語彙獲得と入力量の関係を調べた古典的な研究(Pearson ほか, 『Applied Psycholinguistics』1997年)でも、触れる量が少ない言語ほど語彙の伸びが緩やかになることが報告されました。
誰と、どの言語で話すか
家庭での言語の使い分けが結果にどう効くかを大規模に調べた研究があります。ベルギーの1,899家庭を対象としたアニック・デ・ハウワー教授の調査(『Applied Psycholinguistics』2007年)では、家庭の言語方針によって、子どもがその言語を実際に話すようになる割合が大きく変わりました⁸。
| 家庭での言語の使い方 | 子どもがその言語を話した割合 |
|---|---|
| 両親とも家庭でその言語を使っている | 約97% |
| 両親とも、2つの言語を使っている | 約79% |
| 片方の親だけがその言語を使う(一親一言語) | 約74% |
| 片方の親が2言語、もう片方は多数派言語のみ | 約36% |
デ・ハウワーは、広く知られているOPOLアプローチは、必要条件でも十分条件でもないと結論づけています。8
ここで大切な但し書きがあります。この調査の対象は、親のどちらかがその言語の話者であるご家庭です。日本語で暮らすご家庭が英語を育てたい場合は、前提が異なります。家庭内だけで1日1〜3時間の英語の入力を確保するのは現実には簡単ではなく、だからこそ園や教室といった家庭の外の環境が、入力量を担う現実的な選択肢になります。園という選択肢については、「プリスクール とは? 保育園や幼稚園との違い」をご覧ください。
画面よりも、人とのやりとり
量と同じくらい、入力の質にもはっきりした知見があります。乳児は映像から言語をそのまま学ぶわけではなく、複数の相手とやりとりする機会が語彙の獲得と関連することが報告されています⁶。ワシントン大学のパトリシア・クール教授らの実験(『PNAS』2003年)でも、外国語話者と対面でやりとりしたグループでは音の聞き分けが育った一方、同じ音声を映像や音声だけで聞いたグループでは効果が確認されませんでした⁹。
英語の動画や音源に価値がないという意味ではなく、流しておくだけでは学びになりにくい、という意味です。隣で一緒に見て声をかける材料として使うと活きてきます。この点は「赤ちゃんの英語はいつから?」という記事でさらに詳しくご紹介しています。
何歳から始めるとよいのか
「バイリンガルに育てるなら何歳から」という問いに、ひとつの正解はありません。第二言語習得の臨界期仮説をめぐる研究レビュー(南山大学・鹿野, 2018年)は、「◯歳までが唯一の臨界期」という単純な見方は支持されにくく、発音・語彙・文法など能力の種類ごとに敏感な時期が異なると整理しています。文部科学省の資料でも、外国語として英語を学ぶ環境では明確な臨界期は確認されていないとされています 11。
一方で、早い時期に始めることに意味がないわけでもありません。乳幼児期は母語にない音への感受性が高い時期にあたります。⁹また就学前は、学校の勉強や習い事に追われる前に、生活の中で英語の時間をまとまって確保しやすいという現実的な利点もあります。
大切なのは、始めた年齢そのものよりも、無理なく続けられる形かどうかです。言葉の育ち方はお子様それぞれで、同じ年齢でも反応は大きく異なります。「もう遅い」と焦る必要はありません。
ローラスインターナショナルスクールでの取り組み
ここまで見てきた「まとまった入力量」「人とのやりとり」「日本語を削らない加算的な形」。これらを日々の生活の中で形にしているのが、ローラスインターナショナルスクールオブサイエンスのプリスクールです。
1.5歳から通えるオールイングリッシュの環境で、Newton(1.5歳〜)、Galileo(2〜3歳)と発達段階に応じたクラスを編成し、キンダーガーテン以降の Da Vinci、Darwin、Einstein へと学びが続きます。1クラス約20名に対して担任講師1名と保育スタッフ2〜3名が関わる体制で、一人ひとりとやりとりする機会を確保しています12。
特徴的なのは、英語が「学ぶ対象」ではなく「学ぶための道具」になっている点です。「どうしてこうなるのだろう」と予想を立て、実験し、観察して確かめる——サイエンスの活動を英語で行うことで、言葉が意味のある場面と結びついていきます。フォニックスや語彙、算数の基礎、リトミック、体育、アートも、同じ英語環境の中で行われます12。
まとめ
バイリンガル教育をめぐる情報は、期待も不安も大きく語られがちです。研究に照らすと、確かなことは思ったより控えめかもしれません。認知面の効果はこれまで強調されすぎてきた一方で⁵、言葉の混ざりや語彙の見え方といった心配の多くは、発達の正常な一部でした⁶。
結果を左右するのは、始めた年齢よりも、どれだけの量を、誰とのやりとりを通じて積み重ねられるかです6。そして日本語という土台を保ち続けることが、2つの言語が「入れ替わる」のではなく「積み上がる」ための条件になります2.
ローラスでは、学校見学や説明会を開催しています。英語で過ごす環境でお子様がどのような表情を見せるか、実際にご覧いただく機会としてお気軽にご利用ください。
Q&A よくある質問
8つの質問2つの言語を使って生活や学習を進め、両方の言語で年齢相応の力を育てることを目指す教育の総称です。米国では、移民の子どもを母語で教えながら徐々に英語の授業を増やす橋渡し型の教育を指してきた歴史がありますが、日本で語られる場合は、日本語と英語の両方を育てる教育を指すことが一般的です。
園や学校で英語の環境に入るイマージョン型、保護者がそれぞれ別の言語で話しかける一親一言語型、家庭で絵本や歌に取り組むおうち英語型、そしてこれらを組み合わせる併用型があります。どれが優れているというよりも、必要な入力量をどこで確保するかという観点で選ぶと、ご家庭に合う形が見えてきます。
可能です。1,899家庭を対象とした調査では、一親一言語は少数派言語の継承にとって必要条件でも十分条件でもないと結論づけられています8保護者の方は日本語で豊かに語りかけ、英語の入力は園や教室、絵本や歌から届けるという分担でも成り立ちます。
バイリンガルの子どもが言語発達の困難を抱えやすいという事実は、研究では確認されていません⁶。一時的に片方の言語の語彙が少なく見えることはありますが、2つの言語を合わせた概念語彙で見るとモノリンガルと同等です。注意したいのは、英語の時間を増やした結果、日本語での会話や読み聞かせが減ってしまうことのほうです。
多くの場合、心配は要りません。コードミキシングは発達の正常な一部とされ、知っている言葉を総動員して伝えようとする工夫でもあります⁶。1日12時間なら1〜3時間にあたり、家庭だけで確保するのは難しい場合が多いため、園や教室と組み合わせる形が現実的です。
環境を意図的に設計すれば可能です。目安として使われるのは、起きている時間の10〜25%程度その言語に触れているという基準です⁶。1日12時間なら1〜3時間にあたり、家庭だけで確保するのは難しい場合が多いため、園や教室と組み合わせる形が現実的です。
- 『言語的マイノリティの児童の教育』— 全米研究評議会/全米アカデミー出版局、1998年(加算的および減算的バイリンガリズムに関するランバート(1975)の論文を収録) 全米アカデミー出版局(1998) · ランバート 1975
- 言語的相互依存とバイリンガル児童の教育的発達 — ジム・カミンズ、『教育研究レビュー』49(2)、222–251、1979年 ジム・カミンズ・『教育研究レビュー』(1979年)
- 認知・学業言語能力、言語的相互依存、最適年齢の問題およびその他の諸問題 — ジム・カミンズ、『バイリンガリズムに関するワーキングペーパー』第19号、1979年 ジム・カミンズ・『バイリンガリズムに関するワーキングペーパー』(1979年)
- バイリンガリズムと実行機能の発達:注意の役割 — エレン・ビアリストック、『Child Development Perspectives』、9(2)、117–121、2015年 エレン・ビアリストック・『Child Development Perspectives』(2015年)
- バイリンガリズムは子どもの認知的優位性と関連しているのか? 系統的レビューとメタ分析 — Gunnerud ら、『Psychological Bulletin』、146(12)、1059–1083、2020 Gunnerudら・『Psychological Bulletin』(2020)
- 幼児期のバイリンガリズム:科学的な知見 — クリスタ・バイヤーズ=ハインライン&ケイシー・ルー=ウィリアムズ、『LEARNing Landscapes』、7(1)、95–112、2013年 バイヤーズ=ハインライン&ルー=ウィリアムズ・『LEARNing Landscapes』(2013年)
- バイリンガルの乳児における語彙習得と入力要因の関係 — ピアソン、フェルナンデス、ルウェデグ、オラー、『Applied Psycholinguistics』、18(1)、41–58、1997 Pearsonら・『Applied Psycholinguistics』(1997年)
- 親による言語インプットのパターンと子どもの二言語使用 — アニック・デ・ハウワー、『Applied Psycholinguistics』、28(3)、411–424、2007 アニック・デ・ハウワー · 『Applied Psycholinguistics』(2007年)
- 乳児期の外国語体験:短期的な接触と社会的相互作用が音韻学習に及ぼす影響 — Kuhl, Tsao & Liu, PNAS, 2003 Kuhl, Tsao & Liu · PNAS (2003)
- 第二言語習得における臨界期仮説の検討 — 南山大学(鹿野みどり、2018年) 南山大学(2018年)
- 外国語教育における臨界期に関する資料 — 文部科学省 文部科学省・中央教育審議会
- プリスクール —ローラス インターナショナルスクール オブ サイエンス Laurus ·プリスクール
- 学校見学・説明会 —ローラス インターナショナルスクール オブ サイエンス ローラス・スクール見学

